最高裁判所第二小法廷 昭和28年(あ)3548号 判決 1958年9月12日
主文
本件上告を棄却する。
理由
東京高等検察庁検事長の上告趣意第一点について。
所論引用の各判例は、いずれもその挙示の証拠により、犯罪事実を認定するに当り、情状の斟酌、法令の解釈その他に関し必要な説示判断を示したに止まり、判決文中期待可能性の文字を使用したとしても、いまだ期待可能性の理論を肯定又は否定する判断を示したものとは認められない。されば所論判例違反の主張はその前提を欠くものであって、採るを得ない(なお、原判決に理由を付さない違法があるといえないことは、昭和二四年(れ)第二二七三号、同三一年一二月一一日第三小法廷判決、集一〇巻一二号一六〇七頁前段の項、参照)。
同第二点について。
所論(一)の前段は事実誤認の主張であって適法な上告理由とならず、同後段の判例違反の主張は、その引用判例は事案を異にし本件に不適切であるから採用できない。
所論(二)の判例違反の主張は、原判決は、被告人の所為は公団たる本人のためにした行為であるが故に横領罪の成立を否定するとの趣旨であって、所論の如く横領罪の場合、自己以外の第三者に領得せしめる意思であった場合はその成立を否定する趣旨の判示でないことは明らかであるから、この点の判例違反の主張も採ることができない。
それ故所論はすべて理由がない。
よって刑訴四〇八条に従い裁判官全員一致の意見により主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)